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データ科学と天文学

最近,機械学習や人工知能といったデータ科学分野の進展が目覚ましい.この20年ほど,応用数学分野の理論的進展と計算機の処理能力の飛躍的な向上が相まって,データ解析の手法が発展した結果である.こうした新たなデータ処理の方法は産業を通じた社会への貢献だけでなく,自然科学の分野にも影響を及ぼしていくはずである.実際に生物学をはじめ,すでに大きな変化をした分野が存在する.本稿では,天文学において人工知能や機械学習,統計学などのデータ科学分野の手法が今後どのような役割を担っていくのか考えていく.

弱い回析パターンからの位相回復 単粒子構造解析に向けて

SPring8に建設された短パルスかつ大強度のコヒーレントX線源は、生体高分子など単粒子での構造解析が期待されている。しかし、この従来の10億倍の輝度を持つ光を照射すると粒子は破壊されてしまうため、そうなる前の短時間(数fs以内)に回折パターンを観測しなくてはならない。そのため、測定される回折強度は弱いものになってしまう。われわれは、従来の方法よりも粗い回折パターンから位相回復できるベイズ統計にもとづいたアルゴリズムを開発したので、本稿で紹介する。

通信路容量と確率測度の最適化--最適な変調方式のために--

通信路容量は,情報理論,通信理論において重要な役割を持つ量である.また,その通信路容量を達成する入力の確率分布は最適な変調方式を与えるため,実用上も重要である.本稿では,連続値を入出力とする通信路について,通信路容量とそれを達成する入力の分布について考察する.入力が連続値を取り得る場合,一見すると連続な測度を持つ分布が最適となりそうだが,実際には多くの通信路と入力の制約のもとで,離散値のみを取る離散測度が通信路容量を達成する入力の分布となることが知られている.このような研究は1970年代に始まり …

独立成分解析

両耳処理と独立成分解析

独立成分解析の信号処理への応用

独立成分解析 (ICA, Independent Component Analysis) は主成分分析 (PCA, Principal Compoenent Analysis) と同様,多次元信号の解析手法である.PCA では 信号の 2 次の相関のみに注目し,それらを無相関にする 変換を求める.これに対し ICA は高次の統計量,あるいは時間的な相関に基づく独立性により信号を分離する変換を求める.正規分布以外の確率分布に対しては一般に無相関と独立性とは一致しない.したがって PCA と ICA …